1.トラブル予防と人件費節減の時代背景

(1)労働基準法では1日8時間1週間40時間の労働時間の定めがあります。

    ただし、一事業所10人未満の小売業・美容室・映画館等の小規模サービス業では1週間44時間の特例が適用されます。(1年単位の変形労働時間制を適用する場合は44時間の特例は対象外になります。)

(2)週休2日制が普及し、大手企業の場合、1年のうち有給休暇を入れて150日前後は休みとなっています。

(3)最低賃金制度により時間当たり賃金額は神奈川県956円東京都は957円になっています。

(4)法人は社会保険への加入が義務付けられ、労働保険も当然に加入する必要があります。

(4)残業を行なった場合、通常25%休日は35%の割増賃金を支払う必要があります。

  このような状況下で、中国や韓国は低い人件費を武器にして低価格製品を製造し、日本の市場を奪いつつあります。特に中小企業は厳しい状況にさらされています。製造技術の革新や、効率化により企業努力を行なっていますが、人件費の面でも節減できるものは節減し、困難な状況を乗り切る必要があります。

  かと言って法律を犯す事は許されることではなく、法律の枠の中で節減策を考えることが必要です。また、露骨な賃下げも従業員の生存権にかかわることであり、雇用契約の上からも問題があります。これにより従業員との無用なトラブルを防ぐことが出来、企業の安定した成長を期待することが出来るのではないでしょうか。

 

 

2.トラブル予防と人件費節減の具体例

(1)休日出勤残業の残業時間の削減

A社は週休2日制を実施している会社です。従来、祝日に出勤した場合にも休日出勤とし て35%の休日出勤の残業手当を支給していました。親会社からの急ぎの仕事に残業で 対応することから、賃金に占める残業手当が多く相談をうけました。

 

(対応策)

 労働基準法にいう休日出勤とは週1日の法定休日に出勤した場合を休日出勤と捉えています。従って、週1日の休日が確保されていれば祝日や土曜日に出勤しても残業手当を支払う必要がなくなります。土曜日と日曜日のどちらを法定休日にするかは特に決めなくてもどちらか1日が法定休日になりますが、振替休日の規程がある場合は法定休日を日曜日とする等法定休日をはっきりさせておいたほうが従業員にはわかりやすいと思います。その場合には、就業規則に定めた休日に出勤した場合に休日出勤したことになります。

 

ただし、労働時間の合計が週40時間を超えた場合にはその超えた部分は残業 となり、25%の通常の割増賃金を支払う必要があります。この場合でも、休日出勤の35%ではなく25%でよいことに留意しましょう。

 

(2)定年到来者の就業条件

B社は中小企業の製造業で、人材の少ない中小企業にとって高齢者の持っている技 術は大変魅力があり、若い人を雇用するよりは高齢者の方が即戦力として使える事 から60歳の定年後も年功序列で待遇してきた従来の賃金で雇用してきました。

 

しかし、円高不況で仕事が減り、雇用調整助成金を受給しながら、従業員を交代 で休ませることになり、相談を受けました。休業中は本来の給与の60%(休業手当)であるため、職場が正常な操業状態に戻ったときに対応策を取り入れることにしました。

 

 

(対応策)

 当会社の就業規則では定年後は希望する者を65歳まで嘱託として再雇用する旨の規定があります。また、嘱託社員規定では、1年毎の雇用契約で給与は再雇用の契約時に会社が決定すると書かれています。

 しかし、現状は以前の給与のままで3名が勤務し、定年後2年以上経過している人もいます。人事制度が進んだ会社では次の三つの収入により定年前とほぼ同水準の収入を確保するという考え方を取っています。

   

.定年後の継続雇用により定年前の賃金より低い水準で雇用契約します。

.60歳時賃金の75%以下で働く場合、雇用保険より給付金(「高年齢雇用継続給付」)を受給できますが、支給率は60歳時賃金と比較した賃金割合が低いほど高率となり、61%未満で最高率となり、60歳時賃金の15%を受給できます。   

.昭和28年4月1日以前に生まれた人は60歳で厚生年金の報酬比例部分の年金を受給できます。例えば定年時40万円の給与の人が定年で再雇用され、パートタイマーで24万円の給与になった場合、

   

(ア給与24万円   

(イ)高年齢雇用継続給付24万円×15%=36,000   

(ウ)厚生年金保険概ね月12万円(厚生年金のみの加入者で、世間並みの給与水準だった人)在職者の 年金支給調整▲4万円となり、単純に三つを合計すると356,000円となりますが、税金や社会保険料等の減額を考慮するとほぼ定年前の給与水準と同じになります。

 

 会社としては、40%の賃金負担の減少かつ社会保険料負担も大幅に減りますので人件費負担の減少メリットは大きくなります。また、従業員の手取りも定年前とほとんど変わりませんので、給与が下がっても大きな抵抗はありません。

円高不況が一段落した所で、定年再雇用による賃金改定制度を導入し、8ヶ月が経過しましたが、大きな問題は起こっていません。

代わりに若手の給与をアップさせることも出来ましたので、若い人の労働意欲が高くなるという現象が出てきています。

 

(3)パート社員の解雇問題

 C社の社長より新入社員がたいした仕事も出来ないのに残業手当を請求してきたので、解雇したいという電話が入りました。朝のうちは社長が会社に居りますが、10時以降は営業に出かけ夜にならないと帰社しないという現状で、残業の管理が出来ていません。このような状況で、一方的に残業を否定することは無理が有ります。

 

(対応策)

即時解雇は問題であり、残業しなければならない状況を従業員とよく話し合い、少なくとも6ヶ月間の雇用期間中は解雇しないように 告げました。今後の対応として、雇用契約の更新条項に

ア.自動更新、更新条件に合致したものだけを更新、又は更新しないのかを明記する。

イ.更新条件をつける場合、更新の判断基準 を明記する。

当然のこととして、募集要項に合致する内容であることが必要です。また、

ウ.残業を許可制にし、「時間外勤務命令簿」と、「時間外勤務報告簿」を整備し、勝手な残業を出来ないようにする。

エ.ルールに則った残業には残業手当をつける。

ことで、従業員に説明し、従業員の理解を得ることが出来ました。

 

(4)週休2日制の実施

D保育園は平日7時間、土曜日5時間合計週40時間の勤務体制でやってきました。週休二日が一般的になってきている昨今の状況から職員の要望もあり、その対応策の相談を受けました。保育園の性格上、土曜日の勤務をなくすことができませんのでどのようにするか 検討に着手しました。

 

 (対応策)

従業員代表との協定を結び、1年単位の変形労働時間制をとることにしました。

 労働基準法には1日8時間1週40時間の労働時間の制限が定められていますが、本例の保育園のようにその適用が難しい場合、1ヶ月・1年等の一定期間平均して1日8時間1週40時間の条件を満たせば認められるという制度があります。これが変形労働時間制です。

 

 D保育園で実施した内容は次のとおりです。

ア.土曜日の休みを月2回とし、交代でとることにしました。

イ.従来なかった夏休みも78月に交代で5日づつ取ることにしました。

 ウ.朝7時30分からの勤務もあるため、早番・遅番の二交代性勤務としました。

早番  7時30分〜16時15分   1時間の休憩

遅番 10時15分〜19時00分          1時間の休憩

 

 こうして月毎にスケジュールを組み総労働時間を

365日÷752週  52週×40時間=2080時間 

に収まるようにし、労働基準法の労働時間制限をクリアしました。

職員との間に変形労働時間に関する協定書を交わし、労働基準監督署に届出をして制度を発足させました。

 

新体制での所定労働時間は2054時間であり、以前の体制の1931時間に比較すると123時間多くなりましたが、週休2日や夏休みの実施が職員に理解され、実施することが出来ました。

 

 (5)社会保険料の節約

厚生年金の保険料率は法律により毎年0.354%づつ上昇してゆくことが決まっており、保険料を含む人件費の節減は会社経営の大きな課題になります。この保険料率は国が決定して全国一律に適用され、変えることはできません。では、どのようにすれば節減できるのでしょうか?

  

(具体策) 

 

 厚生年金・健康保険の保険料計算の元になる給与水準(標準報酬月額といいます。)の計算は毎年4月5月6月の三ヶ月間の給与を平均して決定し、9月から翌年8月までの1年間はその金額を適用します。(定時改定といいます。)

 但し、昇給や降給で3ヶ月間の平均が2等級以上変動しますと臨時に標準報酬月額の改定を行ないます。(随時改定といいます。)

 

 

この改定ルールを理解したうえで、昇給時期の再検討を行なうことにより合法的に保険料の節減に結びつけることができます。

例えば4月に行なっていた昇給を10月とすることにより、4月5月6月の三ヶ月間で行なう定時改定での昇給の影響を避けることができます。また、2等級以上の標準報酬月額の変更がなければ随時改定を行いませんので、10月の定期昇給の昇給額を2等級以上にならないよう調整すれば、昇給による影響を1年遅らすことができます。

     

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